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お名前: 土井 隆一郎先生(1980年卒) |
所属施設: 大津赤十字病院 |
私は1980年に京都大学医学部を卒業して、京都府と滋賀県で長く勤務を続けてきました。
海外にも、exchange associate professorという、助手のようなポジションで研究の為の留学経験はありますが、ほとんどは京都府と滋賀県での勤務でしたね。
留学時代も、今と違って状況も整っていなかったので大変でしたが・・・
「同じ環境や大変な状況の中で、どうやって臨床や研究のモチベーションを保ち続けたのか?」というような質問を受けることがあります。
私の場合は『解らないことを解らないままにしておくことが気持ち悪い』という思いが、臨床や研究を続けるモチベーションに繋がっていると思います。
もちろん今は、副院長としての仕事があるので「解らない事」があっても、そればかりを調べる訳には参りません。
それでも全ての用事が終わった18~19時頃から、ほぼ毎日3~4時間、論文作成をしたり「解らない事」の調べ物をしたりする時間に当てています。
若い先生達にも「解らない事」をそのままにしておかず、必ず調べて欲しいと思います。
中には「お手本のような手術手技を身につけたい」という気持ちが強い先生方もおられます。
もちろん、その思い自体は素晴らしいことですが、正直なところ、今は非常にビジュアルに優れたビデオ教材や懇切丁寧な手術書があるので、優れた手術手順というのは比較的に短期間で覚えることができると思います。
実際、私が初めて膵頭十二指腸手術を経験したのは、40歳を過ぎてからですからね。
それよりも優れた手術手技には「何度も術者の試行錯誤」があった事を理解して欲しいと思います。
そういった術者の「試行錯誤」を解らないままにせず「なぜ、この手術手技が必要なのか?」という根拠を調べてほしいと思っています。
根拠が解ると「標準的な知識」として自分に蓄えられるからです。
この「標準的な知識」が、沢山蓄えられることで、臨床や研究で「小さな事に気付く」ことが出来るんです。
例えば、私は膵頭十二指腸切除の専門ですが、これまで膵頭十二指腸切除に関する「解らない事」を調べて、標準的な手術と根拠を熟知してきました。
そういった標準的な知識が蓄えられていたので「こうすれば、もっと綺麗な手術が出来る」ということに気付くことができ、これまでに2つの手術道具を制作することが出来ました。
だから今でも、一例一例の症例に「次に活かせるヒントがあるかも?」と思って、いつも「解らない事」を探していますね。(笑)
どの病院も若手医師を指導できる、指導的立場の医師を求めていますが、私は指導的な医師を集めるのではなく、 指導医 を育てる事が重要だと考えています。
指導医 がいないから、他施設から来てもらう・・・という循環に陥ると大変です。
最終的には、どの施設にも 指導医 が居なくなって、若い先生たち来なくなるわけですからね。
でも逆に言えば、良い 指導医 を育てることが出来れば、おのずと若い先生たちにも来てもらえるということです。
大津赤十字病院では、10年前に初期研修医だった先生が、5年ほど他施設を周ってから、指導的な立場として大津赤十字病院に戻って来てくれました。
強制はしていませんよ。(笑)本人が自主的に出ていって自主的に戻って来てくれたんです。
もちろん、施設として何もしていなかった訳ではありません。
一つ挙げるとすれば、大津赤十字病院に資格を取得できる環境を整えたということです。
大津赤十字病院は、高度技能修練施設Aなのですが、A修練施設としての条件を満たすには、高度技能指導医がいて、年間で最低50件の高難度肝胆膵症例を実施している必要があります。
もちろん、すべての外科医が肝胆膵高度技能医の取得を目指しているわけではないと思いますが、資格が取れる環境が整っている施設というのは、指導的立場の先生たちが働きたいと思う条件の一つだと考えていて、その環境を整えるように施設として努力しています。
ただ、どれほど優れた外科医がいても自然に資格取得に必要な症例が集まるわけではありません。
地域の診療施設で働く先生方からの信頼を得て、患者さんを紹介してもらう事が重要です。
そのために、当院では滋賀県下の近隣医師会の先生方200名ほどに案内をお出しして、学術講演会や親睦会を定期的に行うようにしています。
また当院の部長以上の先生方には「大津市」の医師会に入会してもらっています。
大津赤十字病院にも医師会があるので、本来は入る必要はないのですが、個人として県の医師会と大津市の医師会に入ることで、医師会が作っている広報誌の編集委員や学術講演会に演者として呼ばれるなど、地域の診療施設の先生方との繋がりを作ることが出来るようになります。
先生方との繋がりができると、患者さんを紹介していただきやすくなりますが、紹介いただいた先生方には、お礼や対応状況など3~4回の手紙を届けるようにしています。
そして、これらに加えて当院には私を含めて副院長が4名いるのですが、年末には車で一軒一軒の地域の診療所を挨拶で廻っています。
私一人でも、去年の年末には2週間かけて70件の地域の診療施設の先生方にカレンダーを持って挨拶に伺いました。
もう営業マンですよ!(笑)
でも、こういった地道な努力こそが、病院に患者さんを集め、最終的には医師を集める結果に繋がるのだと思っています。
実際に、大津市医師会から当院への紹介患者さんが、右肩上がりで増加し続けているので我々も成果に非常に驚いています。
どこの地域も同じだとは思いますが、滋賀県は平均年齢が非常に高く、大津赤十字病院周辺の大津市中心部は、2025年にピークを迎えそこからは人口が減ると言われています。
これから大きな医療施設の役割が非常に大きくなると思いますが、大津赤十字病院の周辺には、大津市民病院や滋賀県立総合病院など、すでに幾つもの総合医療施設があります。
これまで通り患者さんに来ていただくためには、大津赤十字病院としての特徴を出す必要が有ると考えています。
良い特徴を、一つでも出すことが出来れば多くの患者さんに来てもらえますが、逆に何か一つでもトラブルを起こして信頼を裏切ってしまうと患者さんも周りの先生方も離れてしまいます。
大津赤十字病院は、これからも紹介していただいた患者さん一人一人に丁寧に対応し、患者さんからも周りの先生方からも「信頼される施設」であることが重要だと考えています。