1997年 三重大学医学部卒業後 |
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お名前: 八木真太郎先生(1997年卒) |
所属施設: 金沢大学 肝胆膵・移植外科 教授 |
京都大学外科 は、他施設では経験出来ないような高難度な手術をできる、非常に数少ない施設だと思います。
肝移植に関して言えば、全国ダントツトップだということ、また、移植技術を応用した血管合併切除を伴う拡大手術などにより、京大でしか治せない患者さんが沢山いることが京都大学外科のプライドであり、そのチャレンジ精神が外科医にとっての大きな魅力だと思います。
私の持論ですが、外科医には、「35歳」と「40歳」という2つのマイルストーン(中間目標点)があると思っています。
すなわち、「35歳」位までに自分の専門性、深く突き進めていく「方向性」を決めたほうがいいということ。
そして、「40歳」位までに「自信を持って(自分の領域の手術は)何でも出来るような外科医」を目指して欲しいということです。
そのために、標準的な治療に関しては、40歳ぐらいまでには習得していて欲しいですね。もちろん全ての医師が、そのような「技術を習得出来る機会に恵まれる」というわけではありません。
しかし、そのような技術を習得できる環境に、自らを置く努力は必要だと思います。
例えば、私が神戸市立医療センター中央市民病院に所属している時は、そこで与えられたポジションでベストを尽くす、ということを常に意識していました。
それは手術を沢山こなすだけでなく、その施設から「何かを発信する」事も、非常に大事であると思っておりました。
それで若い先生方には、どの施設に所属しているかに関わらず臨床的な力だけでなく学問的にも、自分から世界(?)に何かを発信できる力を身につけることを意識していただきたいと思います。
私は、資格はいろいろな意味で、私達医師の「身を助ける」と思っています。
(八木先生の取得資格情報はこちらから)
しかし、例えば、『肝胆膵高度技能専門医』を取得するためには、高難度手術を少なくとも50例は経験しなければなりません。
高難度手術というのは、肝切除では「区域切除あるいは葉切除」、
膵切除では「膵癌の膵体尾部切除あるいは膵頭十二指腸切除」のいずれかが該当しますが、それらの症例の数は決して多いわけではありません。
『肝胆膵高度技能専門医』の症例集めの時期には、症例を独占してしまう時期が生じます。
周囲からそのような状況を認めてもらう為には、上司の先生はもちろんですが、同僚・後輩の先生方にも『資格を取らせてあげたい』と思われる事が重要になります。
そう思われるには、手術の内容はもちろんですが、術前から明確なプランを立て、術後も丁寧に患者さんをフォローし、経験したことを論文にまとめて発表する、という姿勢が重要になってきます。
ただ口を開けて「症例を経験させてくれ」というだけではダメです。
これには当然、通常業務以上に求められることが多く、意識的に努力しなければ出来ないことではありますが、私自身はそのように心がけてきました。
その点で、資格取得を目指すことは、具体的な目標や経過点を設定できるので、自分自身を外科医として成長させる上で役立ちましたね。
もちろん、資格取得というモチベーションを保ち続ける過程で、何度も心が折れるようなこともありました。
そのため、モチベーションを維持できるように、私は、一つのことだけに執着しないように心がけました。
例えば、「高度技能専門医」が欲しくて症例経験だけに執着するのではなく、ある時は、論文作成や学会発表、また気分転換に自分の趣味に打ち込んでストレス発散するのも大事だと思います。
若い先生方にも、(後述の)マイクロサージャリーなどの分野もありますので、そういうことにチャレンジしてもらい、自分の幅を広げられるような経験をしてもらうことで、高いモチベーションを維持していただきたいと思います。
誰もが気持ちの上がり下がりがあると思いますが、そこをどのようにコントロールするかが、非常に大事だと思います。
そもそも外科手術自体、長い手術ですと上がり下がりが必ずありますので、折れることなく最後まで完遂して患者さんの予後を向上させるのはマラソンみたいなものだと思っています。
外科医師にとって、モチベーションのコントロールは重要な能力だと思います。
自分の幅を広げる一つの機会として「臓器摘出移植シミュレーション実習」、「マイクロハンズオンセミナー」などのセミナーを企画しています。
ご出席の先生方からは、非常に良い評判を頂いています。
臨床で細い動脈吻合をされている先生は多くないかもしれませんが、このようなセミナーを通して経験されることで「臨床で機会があればやってみよう」というモチベーションや新たな分野へのチャレンジ、あるいは「この動脈再建の技術があればもっと切除可能な患者さんが増えるのに」というニーズは必ずありますので、若手の先生方の技術向上に繋がればと思っています。
また、マイクロサージャリーに関わることで、通常の手術においても血管の取り扱い方や、臓器の取り扱い方、忍耐力(笑)が大きく変わると信じています。
消化器外科医であっても、これからの若い外科医は是非、マイクロサージャリーの経験をしていただきたいと思っています。
ただ、モチベーションを保つために「なんでもかんでも新たな分野に取り組めば良い」という事を勧めているわけではありません。
例えば「今の時代はロボットだ!」みたいに、多くの先生が同じ方向にしか向いていなかったら、私としては「ちょっと残念だな」と思います。
もちろん、新しい流れには、皆が向かいたいですし、その気持ちは大切ですが、それだけではダメだと思います。
これは、バランスの問題になると思います。
すなわち、ロボット支援下手術などの低侵襲手術により全ての患者様が助かれば良いのですが、臓器移植や超高難度肝胆膵手術など、高侵襲の手術をしなければならない時もあります。
従って、若い先生方には、新たな分野にもチャレンジしながら、バランスよく学び続けるように努力していただければと思っています。
外科は非常に魅了のある診療科だと思います。
他人任せではなくて自分でなんとかしようという気持ちが一番芽生える、非常にやりがいのある診療科だと思っています。
そのためか、外科医を目指されているポリクリや初期研修医の多くの先生方は、しっかりとした意志や熱い思いをもって来られる気がしています。
そのような強い思いで来てくださる先生方には、
技術的にも学問でも成長していただいて、私達が若い先生方に「お返し」をしたいと思っています。
まずは、「早くからサブスペシャルティを決めて、それを目指す」というわけではなく「消化管も肝胆膵も何でも出来るようになる」つもりで臨んでほしいと思っています。
「自分は移植しか興味が無い」、という、強い思いの先生方もたまにおられますが、きちんとした順序を踏んで、外傷手術も含め、外科手術一般のことが出来るようになってから、その先のサブスペシャルティを目指せるように成長を助けてあげたいと思っています。
そのために、外科医を目指されている若い先生方には、日々の明確な目標を持って取り組むように勧めています。
例えば、「今日の症例は、どの様なストラテジーで、何に注意して手術をする」などを考えてみたり、手術の見学をする際にも「今日は、どんな点に注目しょう」など、常に何かの目標を設定するように勧めています。
その理由は、一人の外科医になるまでの時間は非常に短い(限られている)からです。
スムーズに医学部まで卒業されても、その後「初期研修」が2年間あります。
そして、専攻医としての期間が3年間なので、それを差し引くと
順調に外科専門医が取得できたとしても30代前半です。
40歳位までにサブスペシャリティの専門的な資格を取得出来るようになるためには最初にお話しましたが、一般的な外科診療が35歳位までには自信を持ってできる必要があると思います。
そう考えると、医学部を卒業して一人の外科医になる期間は数年しかありません。
焦る必要はないと思いますが、自分の外科医としての将来について「どれぐらいで、どんな風になっているのかな」ということを想像して研修されることをオススメいたします。
医師としての人生は長いと思いますが、私は、外科医として若い先生たちをリクルートするからにはみんなが「外科医になってよかった」と思ってもらえるように私自身も日々努力していきたいと思っています。