※資格・所属委員会は最下部に掲載 |
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お名前: 猪飼 伊和夫先生(1981年卒) |
所属施設: 京都医療センター |
「きょうと外科専門医研修プログラム」では、少なくとも1年目に経験手術症例数150例と術者経験30例程度、2年目には200例と90例程度と専門医取得に必要な研修を行っていただき、3年目にはサブスペシャリティのトレーニングが可能になることを目標にしています。
京都医療センターには救命救急センターがあり、年間4000~4500台の救急車での搬入を受け入れています。
外科の救急疾患に関しては指導医と共に1年目から専攻医が担当するので、救急疾患も沢山経験してもらうことが可能です。
また、京都医療センターはそれぞれの「領域」でのスペシャリストが、専門性の高いレベルの「考え方」と「外科の技術」を持ち、「先進医療への積極的な取り組み」も行っています。
例えば、胃がん、直腸がんに対するロボット支援下手術内視鏡手術も導入しています。
肝切除に関しては、正しいリスク評価とスタッフの手技向上に伴って2019年は6割以上を腹腔鏡で行うことができています。
肝がんでは症例にもよるので一概にはいえないのですが、正常肝で低侵襲度の腹腔鏡が可能な場合は若手外科医の先生にも積極的に術者として執刀してもらいます。
京都医療センターで修練をすればどこに行っても恥ずかしくないレベルの症例経験を積むことができると思います。
もちろん専門研修プログラムは、基幹施設だけでなく他の連携施設でも修練を受けていただく必要がありますので、京都医療センターでずっと研修をするわけではありません。
「きょうと外科専門医研修プログラム」のすべての連携施設が京都医療センターのように「臓器別の専門領域」で研修を行ってはいませんが、京都桂病院のように京都医療センターとほぼ同様の研修内容が可能な病院があります。
そのほかに医仁会武田病院、康生会武田病院、また地域病院として、枚方公済病院と丹後中央病院があり、京都医療センター以外でも十分に高いレベルで経験を積むことができます。
小児外科の研修希望がある場合には京大病院での研修も可能です。
枚方公済病院は地域病院となっていますが、最近「症例」や「診療体制」がかなり充実してきています。
丹後中央病院では研修医ではなく「外科スタッフ」と同等の実働が期待されていますので、専攻医の2年目の終わりもしくは3年目に研修に行っていただくことになります。
どの施設でも十分高いレベルでの修練を期待できるのが「きょうと外科専門医研修プログラム」の特徴ですね。
初期研修が「きょうと外科専門医研修プログラム」の基幹施設・関連施設であれば、その施設で専攻医プログラムの研修をスタートしていただくことにしています。
例えば、京都桂病院で初期研修医だった場合はそのまま京都桂病院で研修を続けて、それから基幹病院である京都医療センター、丹後中央病院や枚方公済病院などの地域病院での研修を行うことになります。
この研修プログラムでは、丹後中央病院を除いて全ての施設が通勤圏内にあります。
丹後中央病院で研修される場合は申し訳ないけど最低3ヶ月間だけ転居して行っていただくことになりますが、それ以外の施設での研修中、専攻医は引っ越しをする必要がありません。
また京都医療センターでは「院内保育」、「病児保育」、それと敷地内に「宿舎」が完備されているので、子育て中の先生方でもかなり働きやすい環境だと思います。
専攻医にとって研修中に何度も引っ越ししたり、仕事が終わって遠方の自宅に帰ったりするのは負担ですからね。
職場から近くの住居で、しかも引っ越しせずに研修が出来るのは、専攻医のワークライフバランスに大きなメリットだと思います。
専門医のための研修予定として、2年間で外科のすべての領域の疾患を担当し、また手術の助手としてのトレーニングを積みます。
消化器外科では2年目の研修が終了するまでにヘルニアや胆石、急性腹症などの救急疾患の執刀が可能となることが目標です。
3年目からは、消化器外科・心臓外科・呼吸器外科などの希望するサブスペシャリティでトレーニングを開始していただく予定です。
消化器外科領域では悪性疾患としてまず「下部消化管」のトレーニングをスタートし、その後「上部消化管」でトレーニングしていただきます。
上部・下部の消化管手術が執刀できることを目標にします。
私は肝胆膵外科を専門にしておりますが、肝胆膵領域の手術手技は消化管とはすこしと異なるところがあるため、消化管である程度執刀を任せることができるようになれば「肝胆膵」の執刀を開始していただくことになりますね。
専攻医プログラムを修了した後も、京都医療センターで継続して外科医の修練を受けていただくことが可能ですが、私自身はある程度の期間同じ病院で勤務したら「病院を変わるように」と若い先生たちには伝えているんです。
確かに長期間同じ指導医から指導を受けることも良い方法ですが、「同じ施設で長期間トレーニングする」ということを私は必ずしも最良とは考えてはいません。
多くの指導医からも指導を受ける機会があったほうが良いではないかと考えています。
指導医にはいろいろな「指導方法」や「考え方」があって、若い先生は、いろいろな「考え方」を学んで「臨床」の幅を広げて欲しいからです。
大学院へ進学・留学した場合でも臨床に戻ることがほとんどです。
研究が終われば自分一人で外科医としてやっていく時がいずれ来ますが、「1人の指導医」からの研修では学べることは限られています。
外科医として独り立ちの時に、「複数の指導医の教え」を有している先生のほうがいろいろな考え方ができると思います.
具体的に言うと、大抵の専攻医は専攻医修了後に2年から3年の臨床経験を積んでから大学院を希望する場合が多いのです。
専攻医期間が修了して大学院へ行けば、教授や准教授、講師の先生からいろいろな研究指導が受けられると思いますが、大学院に進学するまでの2年程度の期間を「別の病院も考えてみれば?」とすすめているんです。
専攻医の先生の希望があれば、希望の施設へ異動できるように手助けをしています。
「京都大学関連施設」はもちろんですが、これまで何人かは「国立がん研究センター」や「京都大学関連外施設」のハイ・ボリュームセンターにも異動しています。
京都医療センターには「臨床研究センター」があって、国立病院機構独自の研究費が申請することが出来ます。
これは「国立病院機構」のおおきなメリットかもしれません。
名古屋医療センターの臨床研究センターはスタッフが充実していて、RCTの研究計画を作成する場合には名古屋医療センターの臨床研究の専門家から助言や指導をしていただくことが可能です。
また、研究に必要な症例集積のために全国の「国立病院機構病院」と連携することができます。
昨年は、当院の成田先生の研究課題が採択されて、現在全国規模でヘルニア研究が行われています。
また胃癌や大腸癌はJCOG主導の全国レベルのRCTにも積極的に参加し、症例登録を行っています。
もちろん専攻医の先生が3年間でこのような研究を完結できるとは思えないので、修練中に専攻医が主たる研究者になることは基本的にありません。
しかし、指導医の研究に協力することによって「研究方法」を勉強する事ができると思います。
指導医の研究に協力するような経験を通して、若い先生達には外科的な手技以外にも色々なことを考えて欲しいのです。
例えば、一つ一つの「手術適応」「手術手技」「術後管理」について、「なぜこれを選択するのか?」という「 根拠 」を自分で考えてもらいたいですね。
「手術適応」「手術手技」「術後管理」は、これまでの外科の歴史の中で何度も失敗を繰り返し、その度に改善され、それが積み重なって「根拠」が生まれてきました。
だから、もし解らないことに直面したときに「自分たちがこれから根拠を作っていく」ということを若い先生達には強く意識して欲しいと思っています。
もちろん、この「根拠」を作り上げていくのは大変です。
基本は「失敗例の積み重ね」ですからね・・・
でも「失敗してほしくない」からといって、最初から「こうすればいい」と結論だけを伝えるのは、 指導医 として違うと思っています。
「こういう考え方に基づいてコレをしている」という話をしてあげるのが指導医だと思います。
教科書を読んで、「書かれていることを記憶する」ことと「理解する」ことは違いますよね?
教科書に書かれていることを理解するためには、書かれていること以上の情報を読み取る必要があります。
その情報、つまり教科書の「行間の内容」をどれだけ正しく伝えていくか、ということが指導医には求められているのだと思っています。
ロジックを組み立てられていない、つまり指導医から若い先生方に納得のいく情報が伝えられていないものが、これからの研究の対象になります。
ですので、若い先生達には「臨床の中で根拠が不足している」テーマを見つけて、若い先生たちの世代で我々の世代では証明できなかった根拠を明らかにして、ぜひこれからの医療に貢献をしてもらえたらいいなと思います。
外科医になると数多くの手術を経験しますが、同じ患者さんに同じ手術する2回することはありません。
実験のように同じ事を何度も出来るのであれば、間違っている場合には違う方法で何度も試してみればいいだけですが、外科医の手術は一期一会なんです。
だからこそ、患者さんにとって将来的に一番良い「手術や治療」が何かを考え、その「根拠」を示して、手術に望む・・・これが外科医にとって一番大事なことだと思います。
「根拠」となる情報を教科書や文献で調べ、自分のできる限り考えを尽くしても、何か足りないと感じることもあると思います。
そんな時は、他のいろいろな 指導医 に尋ねてみたりすることができますし、その指導医から教えてもらった情報も本当に正しいのかを必ず自分で調べてみることが大切だと思います。
そのような「修練」や「勉強」「研究」を続けることで、外科医として自分自身の「根拠」を手に入れることができると思います。