京都大学医学博士 |
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お名前: 大越 香江先生(H11年卒) |
所属施設: 日本バプテスト病院 |
このたびは、英語論文個人戦:2位/The Highest Impact Factor賞/優秀英語論文という栄えある3つの賞をいただきまして、大変光栄に思っております。
心より感謝申し上げます。
受賞対象となった論文は、日本最大の手術データベースであるNational Clinical Databaseを用いて、幽門側胃切除術、胃全摘術、低位前方切除術という3つの術式の短期手術成績を術者の性別で比較したものです。
Comparison of short term surgical outcomes of male and female gastrointestinal surgeons in Japan: retrospective cohort study
BMJ 2022; 378 doi: https://doi.org/10.1136/bmj-2022-070568 (Published 28 September 2022)
結論から言えば、術者の性別による短期手術成績の違いはありませんでした。
昔の外科には・・・
というような雰囲気があり、実際に言われた女性医師がたくさんいたものです(今もまだいるかもしれません)。
消化器外科に興味があっても入口で道を閉ざされた人、道半ばであきらめた人がたくさんいました。
残念ながら女性消化器外科医の手術執刀数は男性消化器外科医より少ないのが実情です。
しかし、女性消化器外科医はそんな不利な環境でも男性消化器外科医と同等の短期手術成績をあげていたことになります。
この結果は、消化器外科医を目指す女性若手医師や医学生を後押しし、現場で働く女性消化器外科医を勇気づけるものであり、同時に世の偏見を打破する一助となるでしょう。
一方で、担当症例を詳細に比較してみると、女性消化器外科医は男性消化器外科医よりも手術成績に悪影響を及ぼす可能性のある併存疾患を有する患者さんを担当する割合が高かったことがわかります。
併存疾患があれば、周術期管理により多くの労力を割く必要があるので、女性消化器外科医の執刀数が男性消化器外科医よりも少ないからといって仕事の負荷が少ないとは言えません。
また女性消化器外科医は、男性消化器外科医よりも腹腔鏡手術の割合が低かったという症例の偏りも明らかになりました。
手術執刀数や腹腔鏡手術数が少なければ消化器外科専門医や技術認定医などの資格を取得するのに不利です。
学会の理事や評議員の女性枠には批判もありますが、そもそもそのような立場に至るキャリア途上で女性に不利な状況があったことが明らかになったのです。
ですから、こうした構造的差別を解消して将来的には女性枠が不要になるよう、ご協力いただきたく思います。
従来の女性医師支援として行われてきた保育所整備や当直免除などという対策は、確かに必要ではあるものの、「女性は家事・育児を担うべき」という性別分業を固定・拡大してきた可能性すらあります。
保育所整備や当直免除といった対策は、現実に小さな子どもを抱える女性医師のニーズに合致するものです。
しかし、目先のニーズに対応しすぎてしまうと、そのようなニーズの元となっている性別役割分担やジェンダーバイアスを固定・拡大してしまうというジレンマが生じます。
私は、女性医師が男性医師と同等の教育を受け、向上する機会を担保することこそ真の女性医師支援であると考えています。
もちろん社会全体が変わらなければどうしようもないところもありますが、京都大学外科交流センターには、様々な背景を持った、様々なライフスタイルの外科医が集い、ともに能力を高めて発揮していける環境を提供していただきたいと思っています。
私は大学勤務ではないので、研究は業務ではなく、ライフワークです。ある日突然空から降ってきて、面白いなと思ったテーマを自由に研究して論文を書いています。
私のような者も京大外科の多様性に良い形で貢献できればと思っております。
引き続きご指導のほど、よろしくお願いいたします。