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お名前: 田中 満先生(1981年卒) |
所属施設: 枚方公済病院 |
枚方公済病院は、京都府との境に位置しており、医師が71名、看護師313名、コメディカルが90名、その他事務職員等136名が在籍しております。
さらに2017年から始まった「新専門医制度」に伴い、当院でも研修を希望する専攻医が来るようになり、現在は内科2名外科1名の専攻医が研修を行っています。
また当院は、内科循環器科の救急指定病院であるため循環器系疾患の対応が多く、月で200件以上、年間で約2,500件の救急を受け入れており、枚方市北部の救急をカバーしています。
もちろん循環器系疾患の対応だけでなく、最近は腹痛などの消化器救急症例も増えてきており、外科症例も増加傾向にございます。
枚方公済病院 外科では、年間600件近くの症例があり、そのうち150件ほどの緊急手術を対応しており、症例数は増加傾向です。
外科症例数が増加している要因は幾つかあります。
まずはスタッフの増員です。
2016年に上部消化管の内視鏡技術認定医を取得されている浅生義人先生が「天理よろづ相談所病院」から当院に来てくださいました。
さらに麻酔科の常勤医師や消化器内科の若手医師の確保など、症例数の増加に対応できるようにスタッフの増員が出来たことが良かったと思います。
枚方市では、消化器疾患の救急対応が出来る医療機関が少ないという現状がございました。
そのため地域で「消化管出血救急輪番制度」を病院協会が始め、それに枚方公済病院も参加することで症例数の増加に繋がっています。
もちろん「スタッフの増員」と「輪番制度への加入」だけで症例が増加しているわけではありません。
当院は「地域医療支援病院」の指定を受けておりますが、指定を受けるためには、近隣の地域の医療機関との「紹介率」と「逆紹介率」の規定をクリアする必要があります。
「紹介率」と「逆紹介率」の規定をクリアするためには、近隣の医療機関の先生との信頼関係を築く必要がありますが、当院では紹介患者さんの情報について「一症例に最低3回の連絡」を心がけ、近隣の医療機関の先生と緊密に情報交換をするように心がけております。
具体的に外科で申し上げるなら・・・
少なくとも(上記)3回の連絡を紹介してくださった医療機関へお伝えするようにしています。
実は、以前までは「退院時」のみの情報だけを知らせていたのですが、京都大学消化管外科 坂井義治教授から「大学でも3回は書いているので見倣ってください」と指摘を受けたのです。
スタッフ数も限られているため大変ですが、患者さんのご紹介を頂くために、枚方公済病院のスタッフ全員が協力し高い意識を持つことで紹介率アップつまり症例の増加に繋がっていると思います。
枚方公済病院の外科スタッフは「6名」と少数ですが、全員が卒後10年以上のベテラン外科医なので、若い先生はベテラン指導医の下で「心に余裕を持ちながら充実した勤務」が出来ると自負しております。
実際に当院は、京都医療センターを基幹病院とする「きょうと外科専門医研修プログラム」の連携病院ですが、研修に来られた専攻医からは「満足のゆく研修が出来た」と報告を受けております。
ただ当院は、市中病院であるため「高難易度症例」に対応する「肝臓外科スペシャリスト」となる先生が在籍しておらず高難易度症例を経験することには限界があります。
だからといって肝胆膵領域を一切経験出来ないというわけでもなく、当院には一応チームがありますので「胆のう手術」や簡単な「肝切除」の指導を行うことが出来ます。
また「高難易度症例」に関しては、京都大学肝胆膵・移植外科から田浦康二朗准教授にお越しいただきご指導いただいており、その際には専攻医にも積極的に手術に入っていただきますので、肝胆膵領域でも勉強が少なからずできると思います。
当院ではベテラン指導医のもとで、まずは専攻医の先生方に「外科専門医」の取得を目指していただきます。
その次に本人の希望があれば「消化器外科学会専門医」「内視鏡技術認定医」を目指していただきますが、そのためには学術的な裏付けが必要となりますので、若い先生方には手術手技だけでなく「学会発表」「臨床研究」「論文作成」等の学術面での基本的なことが出来るように指導しております。
これは個々の力量に応じてですが、最初「地方会での発表」を行えるように準備し、発表した後は「どうすれば論文にして学術業績を残せるか」をアドバイスすることで、階段を一段一段登るように「学術業績経験」を積んで頂きます。
手術手技においても毎週水曜日に、院内レクチャーを各科のスタッフが持ち回りで行っていて、外科でも腹腔鏡手術のドライボックスを揃えて、外科独自の専攻医レクチャーに取り組んでいるところです。
枚方公済病院では、できるだけ時代に合わせて「手術手技」や「学術業績」の学び方を変えておりますが、私個人としては外科医としての「学ぶべき基本」は、いつの時代も変わらないと思っています。
それは・・・
今は、電子カルテなど便利な医療機器で患者さんの状態を詳細に知ることが出来ます。
しかし、やはり私は医師が患者さんに直接触れ「患者さんの顔色」や「体の様子」などコミュニケーションを取りながら知ることで、患者さんに与えられる「安心感」があると思います。
医療技術の進歩と逆行するような言い方になるかもしれませんが、外科医として「患者さんとのコミュニケーション」と「患者さんを直接診る」というのは外科医が学ぶべき基本だと思っていますので、それを忘れずに新しい診断方法や医療機器を活用して欲しいと思います。
「外科医は常に謙虚であれ」この言葉は、私が先輩外科医から言われた言葉ですが「学ぶべき基本」を習得するために重要な言葉だと思っています。
「謙虚」であることで、手術が上手くいっても決して驕ること無く、常に改善点や問題点を振り帰ることが出来るのでより患者さんを診る能力が向上します。
名医と呼ばれる先生方は、いつでも必ず改善点や問題点が無かったかを振り返っておられます。
私が京都大学小児外科グループで勤務していた頃、夜中の新生児の緊急手術が終わり、当時京都大学小児外科グループにおられた田中紘一先生と深夜二人で病棟の廊下を歩いていると「Dさん、今日の手術どうやった?どう思う?」と聞かれました。
(当時の当時の第一外科、第二外科には田中の姓が4人在籍していたため「A,B,C,D」に分け大先輩の田中紘一先生はAさん、一番下の私はDさんと呼ばれていた)
一番下の私に10年以上も大先輩外科医が意見を求めることにも驚いたのですが、私なりにお答えすると「そうか、そういうこともあったなー」と言われ、自分のやり方が唯一最高のものと驕ること無く、若手の医師の意見に耳を傾けてくださった出来事は「謙虚さ」を学ぶ手本になっています。
是非、若い先生方にも外科の名医を目指す上で「常に謙虚」を意識するようにしていただきたいですね。
もちろん外科医として求められていることは、これ以外にも非常に多く、若い先生は色々大変だと思います。
時には、予想もしない出来事が起きますからね。
私は、獨協医科大学の出身なのですが、医学生時代は「小児外科医師」として母校に残るつもりでした。
ただ事情が変わり、母校を離れ京都大学関連病院で勤務する事になり「他人の釜の飯を食う」と言いますか、知り合いも居らず全く違う環境で勤務する必要がありました。
当時は、自分が願っていた環境とは全く異なる状況で勤務経験をする必要があったので辛く感じることも有りましたね。
ただ当時の指導医からは、辛い環境を変えようとするのではなく「まず力をつけなさい」と言われたことを覚えています。
「力」というのは、外科医としての「手術技術」や「知識」のことですが、何か辛い状況があって、それを改善しようと行動しても「力」がなければ何も変えられません。
辛くても、まずは踏ん張って「力」をつけること。
それが出来て初めて「こういう道に進みたい」とか「こういう外科医になりたい」というのを考えなさいということでした。
ですから若い先生にも色々と大変なことがあると思いますが「腐らず」に 外科医 を 続ける 努力をして欲しいと思います。
たとえ殆ど自分の益にならないことでも、それを積み重ねれば大きな「力」になるわけですから、今は辛くても「踏ん張って」ほしいですね。
と言うと、当院の院長に「(若い先生に)それを言ったら今の時代はあかん!」と言われているので、直接は言いませんけどね(笑)
でも、そういう「謙虚に踏ん張り続ける姿」は、必ず誰かが見ていますよ。
私が京都大学に異動した後に参加した学会で、一番はじめに師事を仰いだ獨協医科大学の長島先生にお会いしました。
その時に、長島先生が「うちの卒業生なので、よろしくお願いします」と、当時京大におられた田中紘一先生に色々と私のことを話してくださいました。
私が獨協医科大学を離れた後も、長島先生が私を気にかけてくださっていた事には一番感激しましたね。
若い先生の「踏ん張りながら」努力している姿は、必ず「誰かの目に留まる」と思いますので努力を続けて欲しいです。
絶滅危惧種と言われている外科医ですが、私自身は医療環境がどの様に変わっても、内科だけでは治せない病気は必ずあるわけですから「外科手術」は無くならないし「外科医」も必要だと思います。
確かに、外科医は他科と比べて求められることも多くあります・・・それでも外科医は「続ける価値がある」と思います。
これは他科の先生方によく言われるのですが、手術で患者さんを治療したときの「感謝」や「感動」は、外科医は他科に比べて大きいと言ってくださいます。
私自身も、そういう「感謝」や「感動」を得られることが「続ける価値がある」外科医の魅力だと思います。
是非、多くの先生と外科医を続けて「感謝」や「感動」を味わいたいですね。